Report / ジョエル・ポムラ「Ma chambre froide」

April 4, 2011

このあらすじを書くと、誰よりも真面目でけなげなが主人公の真の顔は残虐殺人犯であった、と簡単な結論を導きだしたくなるだろう。だがポムラはそれほど安易に人間の闇を解決しない。エステルの人生の表面と裏面は、まるで夢とうつつを行き来する昏睡状態のブロックの意識のように、後半に進むにつれて激しく断片化されてゆき観客に解釈的な幅を与えていく。

人生はたしかに、誰かの目をとおしてみればこの世のひとつのフィクションだ。日常の行動のすべてが唯我独尊な取りきめのままに進めば、脳外のリアリティは脳内のフィクションに呑まれてしまう。それでも私たち観客は、リアリティを生きていると信じて疑わない。しかし本当にそうだろうか。気づかぬうちに完璧な想世界の牙城を築き、その内で生きているだけではなかろうか。

仏全国紙ル・モンドで「 Le génial feuilleton théâtral(演劇ドラマの偉業)」と手放しで絶賛された本作。この偉業の達成は、ポムラひとりによるものではなく、表だっての台詞の裏にある「語られない真実」を細大漏らさず表現する9人の役者たちによるものでもある。演出家と劇団員による、ひとつの「理想形の仕事」を目にすることができる舞台であった。

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This entry was posted on April 4, 2011 at 05:32.

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