Travelogue / 時を紡ぐ島 — アラン諸島

December 18, 2010

DSCF0592北緯五十一度。モスクワとほぼ同緯度にあり、四方を黒い大西洋に囲まれたつましい孤島。木と呼べるような立派な樹はなく、土と言えるような肥沃な耕土もない。かつてアイルランド全土が清教徒クロムウェルに侵略されたおりにも、この島を含む西方の土地だけは強欲な占領者も欲しがらず、それどころか地元のアイルランド人を強制移住させたというから、昔からどれだけこの島が酷薄な土地であったかがうかがえる。

しかし、いざ荒蕪の地アラン島に降りたつと、ふわり、意外なほどやさしい初秋の風が頬をなぜた。緯度が高くとも暖流の影響で気温がさほど下がらないのだ。その湿潤な風の誘いにのり周囲に視野をひろげると、あたりは地平線の先の先まで、空と石と草の風景。耳には雄大な大西洋のさざめきと微かな鳥のさえずりがときおり風に乗って響き、その飾り気のない石と海の世界のすべてを一種独特の「寡黙さ」が包みこむ。その静けさはまじめで、素朴で、なんともいえず丹念なもの。南国の大あくびのような空白とも、大都会の冷たい沈黙とも異なる、実に居心地のよい旧知の友のような静寂だ。

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This entry was posted on December 18, 2010 at 01:15.

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