Paris Report / ジャネット・カーディフ「40 声のモテット」 ニュイ・ブランシュ(3)

December 5, 2009

閑話休題。15分ほど歩いたところで、壮麗な聖セヴラン教会のまえで黒山の人だかりに遭遇する。カナダ人アーティスト、ジャネット・カーディフによる圧巻の音響インスタレーション『The Forty-Part Motet 40 声のモテット』が展示されているのだ。本作は、今年1月に銀座メゾンエルメスでも鳴りもの入りで展示され話題を呼んだ作品。荘厳なステンドグラスが美しい教会内には40台のスピーカーが半円形に設置され、そこからイギリスはルネサンス期の作曲家トマス・タリスによる「我、汝の他に望みなし」(1573)の、おのおの異なるパートが大音量で溢れでる。そして観客は、その音の津波に溺れながら会場内を自由に歩きまわることに。写真で適確にその体感を伝えることができないのが残念だが、教会内の隅々まで響きわたる鮮烈な音波と、どこか呼吸をゆったりと落ち着かす静夜の帳につつまれて、数百人の観客はその場で集団トリップに入りこんでしまうかのような不思議な非日常感覚を共有していた。

カーディフの音の洪水に眩暈をおぼえたのち、パリの冷気に浸りながら、ふたたび散歩を続行。セーヌ川をわたり、シャトレ広場に辿りつく。すでに時計の針は深夜をまわろうとしているものの、人混みはおさまるどころか増すばかり。シャトレ座ではドイツ人映像作家メラニー・モンショウ、おむかいのパリ市立劇場では米国人映像作家ダグ・エイケンの旧作を流しているようだったが、あまりの人だかりにめげて劇場内に入ることなく帰ってきてしまった。その後は、ルーブル美術館の近くにあるゴシック様式のサン・トゥスタシュ教会で、2年前に英国ターナー賞を受賞したことでも有名なかなりマーク・ウォリンガーの『Threshhoold to the Kingdom』を少しだけ覗き見。ロンドンシティ空港の到着ゲートを人がくぐりぬける映像に、天国的な、十七世紀作曲家アレグリによる音楽『ミゼレーレ』がかぶせられる、というただそれだけの映像作品で、風刺精神は伝わるものの個人的には直裁すぎておもしろみに欠けた。

 その後も、ニュイブランシュの賑わいと愉しみは夜通しつづいたようだが、筆者は、ベッドで睡る風邪っぴきの友人がどうしても心配になりアパルトマンに帰ることに。次回、このフェスティバルに参加するときには、街中散策を気楽に愉しめる友人や知人たち大勢といっしょに街にくりだそうと思う。そのほうが、ひとりで出かけるよりも百倍愉しいこと請け合いだ。

記事初出:『日経ウーマン オンライン』2009年11月
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This entry was posted on December 5, 2009 at 22:08.

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