Avignon Report ラシッド・ウラムダン / Des témoins ordinaires

Photo © Erell Melscoët
温度計に容赦のない33℃の表示。アヴィニヨンの暑さは今日もあいかわらずだ。朝出ぎわにカバンのなかに、財布や鍵や携帯電話といっしょに、ミネラルウォーターを確認するのは、ここで生き延びるために不可欠な日課。にも関わらずこの街では「Salle Climatisée (室内冷房中)」とあえて明記されていないかぎり、多くのカフェやレストランは常温営業。そして誰もそれに不満をぼやかない。これは市内の主な移動手段であるバスでも同じこと。公演場所に赴くとき、観光バスのように小綺麗なシャトルバスが臨時調達される場合を除き、人々は埃っぽい市バスのなかでちょっとした我慢大会を経験する。
今日上演されるアルジェリア系仏人振付家ラシッド・ウラムダンによる『Des témoins ordinaires (The Ordinary Witnesses) 』の会場も、アヴィニヨンの「intra-muros(街中央をぐるりと取り囲む城壁のなか)」から外へ、市バスで走行すること20分。Villeneuve (ヴィルヌーヴ) という、かつて修道士たちが居住まいを置いた、ローヌ川対岸の小さな町に在る。凪にたゆたう海藻のようにゆったりと扇で風を仰ぐ老婦、アプリコットをかりかり囓り栄養補給する女性、飲み水が欲しいとわぁわぁ泣いてママンに訴える男の子。確実にパリだったら小競りあいが勃発するカオティックなバス内の環境下にも、アヴィニヨンの人たちは悠揚と心をくずさない。ゆるやかな談笑と祭の高揚感に興じ、小さなノイズに苛つかない。
そんなバスに揺られ、川を渡り、丘を登り、いざ会場へ。教会と、礼拝堂と、四十の修道士たちの独居房からなる、十四世紀に建てられたヨーロッパ最大級の修道院のひとつ「ラ・シャルトルゥーズ」に向かう。眼前に水平に横たわるは、土色の石造りの簡素な建物。かつて修道士たちが集まった祈りの場というだけあって、質素ながら手入れの行き届いた風格がただよう。と同時に、あるときは敷地内に小さな牢獄も存在したというから、その表だった清潔さの裏には、確実に、錆びた血の匂いも混ざる。祈りと暴力、秩序と混乱、光と影。相反する二つの要素を併せのむこの特異な場に、ウラムダンの今日の演目はあまりにもぴたりとあてはまる。
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This entry was posted on July 27, 2009 at 01:01.