Avignon Report ナチェラ・ベラーザ / Le Cri

Photo © Agathe-Poupeney
アヴィニヨンの街が気怠さに呑まれる午後三時。さらさらとプラタナスの葉を揺らすローヌ川からの涼風がぱたりとやむ。その風の音にかわり耳に届くのは、日本のそれよりもオクターヴ高いどこか乾いた蝉しぐれ。背後からは白色光線を放つ南仏の巨大な太陽が重石のようにのしかかってくるーー。
「いま外を歩くなんて殺人行為だね」。そうアヴィニヨンの地元人たちが観光客をカラカラと嘲笑する太陽との闘いのような時刻。人も犬も猫も多くは午睡にまどろみ街中はどこか閑散とする。そんなさなか、蟻の巣のように入りくんだ路地を抜けた先にある小さな教会前には、時刻にそぐわぬ黒山の人だかりができていた。チャペル・デ・ペニタン・ブラン。入口を見上げれば跪き祈る二人のペニタンブランたち。かつてフィレンツェからやってきたと言われる「白い衣服の教団者たち」の姿が描かれている。だが太陽を罵倒するような大声で「イル・フェ・ショー、イル・フェ・ショー(暑い、暑い)」と叫びながら居並ぶ無数の人たちは別に、ここに懺悔を告解しにきているわけではない。そもそもこの教会は、この街の至るところにある他の多くの教会と同様、その本来の機能を数十年前になくしている。そうではなくこの汗みどろな人々は今日ここに、ある年若いムスリム女性によるダンス公演を観にきたのだ。
アルジェリア出身の振付家ナチェラ・ベラーザによる『ル・クリ』。直訳するならThe Cry……叫び、泣き声。この題名どおり五十分にわたる本パフォーマンスでは、ナチェラと彼女の双子の姉妹ダリラによる、ムスリム女性の文化的境遇と結びつく、苦しく哀しく圧し殺された叫び声を形象化するデュエットがくりひろげられる。開演と同時に、完全なる闇と静寂に呑み込まれる劇場。火照った体に心地よい冷気がひたひたと四方の土壁から迫りくる。その冷たい闇の向こうから微かな囁き声が聞こえるとともに、薄ぼんやりとした溶明のなかから二人の女性が姿をあらわす。くすんだスミレ色の衣服をまとい、正面を向き視線を伏せ、足を肩幅に広げ立つ。その足は地面に鋲打ちされたかのようにしっかりと固定され、地と水平に両肘がかかげられた上半身だけが、振り子のように動かされていく。
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This entry was posted on July 26, 2009 at 19:39.