【Interview】ホッフェシュ・シェクター / 振付家

15374————今回が初の日本公演になります。あなたがどのようにしてダンスをはじめられのか、少し自己紹介をしていただけますか。
僕はまず子どものころに民族舞踊を習いはじめました。イスラエルでは民族舞踊がとても盛んなのです。老若男女、なにか祭儀があるたびに踊ります。と同時に、僕は音楽も好きだったのでピアノも習いました。絵画も少しやったかな。でも最終的にはダンスを選んだ。ダンスがいちばん人と社交できて楽しかったんです。僕はとても内向的だったので、ダンスによって自分を表現する手立てが得られたのが嬉しかったんです。それでその後、エルサレム・アカデミー・オブ・ダンス・アンド・ミュージックで学び、また十代後半からはプロのダンサーとしてバトシェバ舞踊団で踊るようになりました。

————その後、いちどダンスをやめて打楽器奏者を目指されますね。
そうなんです。なぜかダンスだけでは僕のなかにある「創造欲」を満たすことができなかったんです。それで打楽器の先生をテルアビブで探しだし、その後二年、毎日五時間ドラムを叩きつづけました(笑)。でも今から考えると打楽器を習得したことは、現在の振付活動にとても役立っているように思います。というのも僕は基本的に、振付を考えるときにリズムから考えるんです。舞台役者が緩急や強弱などの言葉のリズムを決めてからセリフを言うのと同じように、僕もムーヴメントのリズムをまず考える。で、そこで打楽器を習っていた経験が役立つ。また振付と音楽の双方をクリエイトできるようになったことで、かなり純度の高い自分だけの世界観が作れるようになりました。だからようやく今、自分の創作欲が満たされているように思います。

————あなたの生み出すムーヴメントは非常にオリジナル。昆虫や動物を思わせる動作、民族舞踊を思わせる舞、肉体労働者のしぐさを思わせる群舞、あのユニークな身体言語はいったいどこから生まれてくるのでしょう?
すべては自分の内側から、自分の感情とコネクトすることから生まれてきます。だから創作にあたってはまず、毎回なるべく素直に自分の感情と向きあう。そして自分が表現したい、漠然とした「感覚」を掴む。それはまったく言語化できない感覚で、だからこそ僕はそれを身体言語に移し替えようと試みるわけです。そこから果たしてどんな動きが生まれてくるのか、自分でもわかりません。けれど「とりあえずやってみよう」と稽古場に入っていくわけです。また僕はダンサーたちにも、形より感情を大切にしてくれと伝えます。僕が伝えたい感情さえ適確に掴んでいてくれれば、少しぐらい腕が高かろうが低かろうがかまいません。

————確かにあなたのカンパニーのダンサーたちは身体的な特徴がバラバラ。でも内側に、なにか同じ核のようなものを持ちあわせているように見えます。
僕はダンサーを選ぶとき、なんらかの「謙虚さ」がある人を選びます。あとは温もり、繊細さ、人間臭さ。これらは僕が作品で表現したいと思っている感覚なので、そもそもダンサーのなかにそれらの要素がなければ作品が成り立ちません。もちろん僕はダンサーの個性も大切にします。もし僕がレストランのマスターシェフだとしたら「パスタを作れ、デザートを作れ」と命令するようなことはしません。そうではなく、僕はみんなの意見を聞きながらいっしょに作っていきたい。それで最終的には、味つけは極力シンプルに。そのほうがよりダイナミックに空間と時間をアレンジして、観客を動かすことができるのです。

————新作『ポリティカル・マザー』は示唆的なタイトルです。なにか政治的なメッセージが含まれるのですか。
僕はダンスで政治を語ろうと思ったことはありません。それでも「ホフェシュ・シェクターの作品は政治的だ」という人は多い。たぶんそれは、僕がイスラエル出身だからそう思い込んでいる人が多いのでしょう。僕はそんなに大それたことをダンスで語ろうとは思いませんよ。ロンドンの小さな部屋で小さな人生を送っていたときに、非常にプライベートな感情を伝えたいと思って創作をはじめただけですから(笑)。ただ今回の新作では、ひとつ新たな試みに出ます。複数のまったく異なる世界観を、舞台上で編集してつなぎあわせてみたいのです。だからより複雑でシュールな世界が生まれてくるでしょうね。どんな秩序が、あるいはどんな秩序だったカオスが生まれてくるのか……、僕自身も楽しみです。

初出:埼玉アーツシアター通信 vol.27 2010年6月1日

Posted on by K.Iwaki in ARTICLES / 記事
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