【ARTICLE】欧米デジタルパフォーマンス・フェスティバルの現在

Exit1-500x282

日々の少なくない時間をバーチャル空間で過ごすようになった今、主に欧米圏で「デジタル・パフォーマンス」と呼ばれる、舞台芸術とメディア・アートの中間地点に位置づけられるような作品が数多く発表されている。デジタルとリアルが共存する地平で日常生活が送られるようなった今こそ、その二重現実に応答するような芸術作品が作られるべき。そんな時代性に即したミッションを探究する、海外のフェスティバルを紹介したい。


いわゆる「デジタル・パフォーマンス」の潮流は九〇年代頃から始まっていた。例えば、振付家マース・カニングハムは『 Biped』でダンサーの身体にデジタルセンターを装着してアバターを構築し、スクリーンに投影してみせた。演出家ロベール・ルパージュは、デジタル生成したケベックやパリの街並みで役者たちを包囲した。パフォーマンス・アーティストの ステラークは、身体を無数のケーブルに接続し、インターネットの向こう側にいる観客が、自分の身体を好き勝手にリモート・コントロールできるようにした。そもそも舞台芸術は、音楽、美術、彫刻、映画、などほかの芸術表現を惜しみなく抱擁するかたちで豊かな仮想現実をたちあがらせてきたが、この頃から、加速度的にデジタル化されていく日常環境に応答するかたちで、多くの芸術家がテクノロジーに下支えされた作品を生み出していくようになったのだ。

こうしたデジタル・パフォーマンスを個人的に体験しはじめたのは、遅ればせながら2000年代後半頃から。広く欧州圏で舞台芸術を視察してまわるようになってから、メディア・アートとパフォーミング・アートの中間に位置づけられるようなフェスティバルや劇場の存在に自覚的になっていった。とりわけフランス北東部モブージュ市で開催されるフェスティバルVIA(主催:ル・マネージュ国立舞台)と、パリ郊外のクレテイユ市で催されるフェスティバルEXIT(主催:メゾン・デザール・クレテイユ)を訪れた経験は大きかった。

デジタル・アートに通じた人にとっては、これら二つのフェスティバルの名はダムタイプと不可分に結びついているだろう。伝説的パフォーマンスである『 pH』『 S / N』『 OR』などは、ものによってはモブージュでの滞在制作を経て、EXITで上演されることで、世界に発信されていったからだ。2008年にEXITの会場であるメゾン・デザール・クレテイユに初めて足を踏み入れた際に驚いたのは、もはやそこに劇場なのか、ギャラリーなのか、クラブなのかわからない遊戯空間が誕生していたこと。ロビーの照明はまるでクラブのように落とされ、階段から、小ぶりなオフィス、トイレに至るまで、あらゆる場所に作品が気ままに展示されていた。エントランスには「巨大な透明パックに密封包装された生きた人間」のインスタレーションが設置され、トイレには用を足しに来た人を感知するエレクトロニック・ジュークボックスが置かれていた。それら展示を見て、聴いて、体験してまわるうちに夜は更けていき、午後9時頃から大・小ホールの前に、そのまま公演も見て帰ろうという思惑の客の列ができはじめる。

Holistic strata 8

幾度か視察したEXITで見た印象に残る舞台の中に、梅田宏明の『Holistic Strata』(写真上)がある。「ポスト人間主義」を標榜する梅田の作品は、まさにデジタル・パフォーマンスの好例といえるもの。本作で梅田は、身体、光、音といった舞台の構成要素をいったんワンピクセルの点に等価に分解。ヒト・モノ・環境が生み出すムーヴメントを分け隔てなく同じ画素数で表象することで、舞台上にいわば「精巧なデジタル・キャンバス」を作りあげていた。

もうひとつ、いま欧州圏のデジタル・パフォーマンス・フェスのなかで勢いを増しているものを紹介するなら、05年からオランダのデン・ハーグで開催されている Todays Art Festivalがあげられる。この複合芸術フェスの特徴は、音楽、映像、演劇、ダンスのみならずファッションや写真などの先端的表現も自由に採り入れてしまうこと。そのため客層の混在ぶりがじつにおもしろく、実験音楽好きなギークがダンス・パフォーマンスに足を運んだり、演劇愛好家がデジタル・インスタレーションを演劇的に体験したりしていて、諸芸術をタコツボ的にジャンル分けることで極端な棲みわけが完成している日本の状況からすると、すばらしく風通しがよい環境に思えた。ベルリンのクラブ・トランスメディアールやモントリオール のMUTEKといった実験音楽フェスと提携していることもあり、 舞台芸術作品の数はさほど多くないものの、例えば2008年には、オーストラリア拠点のダンスカンパニーChunky Moveがモーション・トラッキング技術を用いて創作した『Grow』などが上演されていた。ちなみに同フェスティバルは、昨年、東京でもパイロット版を開催。今年も9月5日から13日まで、東京と神戸の2都市で開催予定だ。

20120406_Kota_Yamazaki_glowing_comm_res_perf_012 copy

最後に米国の状況を紹介したい。フェスティバルではないものの、いまアメリカで盛んにデジタル・パフォーマンスの可能性を開拓しているのは08年にNYに設立された複合型芸術施設EMPAC(エクスペリメンタル・ミュージック&パフォーミング・アーツ・センター)だ。過去には振付家・山崎広太が、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』に着想点を得て、照明デザインと舞踏を融合させた作品などが制作上演されている(写真上)。今年はマース・カニングハム・ダンス・カンパニーの「ビデオグラファー」として活躍した映像作家チャールズ・アトラスが、かつてのカニングハム・ダンサーたちと3Dダンス映像を滞在制作中だという。

これらのフェスティバルに共通して感じることは、演劇やメディア・アートを杓子定規にカテゴライズしてしまわない分野横断的な風通しの良さ。「現代」を表象するためにテクノロジーが必要なら、それら構成要素を寛容に受け入れていく前向きな姿勢だ。日本演劇界ではいまだしぶとく「人が機械を操るべき」という人間中心主義が残るため、デジタルな審美性が中核に据えられたとたん、舞台芸術ではない何かとして敬遠されがちである。せっかくこれほどのテクノロジー技術を有する国なのだから、将来的には日本演劇界からこそ、世界を牽引するデジタル・パフォーマンスのフェスティバルが誕生することを願いたい。

(『シアターガイド』2015年9月号 初出)

Posted on by K.Iwaki in ARTICLES / 記事
  • お問い合わせは、Eメールまたは下記フォームからどうぞ。
    You can contact us via email button below or submit online

    CONTACT / お問い合わせ