【BOOKS】天児牛大著『重力との対話ー記憶の海辺から山海塾の舞踏へー』

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もう、かれこれ10年程まえのことでしょうか。

山海塾の振付家・天児牛大さんから「フランスActes Sud出版から自伝を出さないかというオファーが来ている。しかし、自分で書くのは気恥ずかしいので協力してくれないか」という相談を受けました。当時20代の私にはその依頼の貴重さ、ありがたさ、怖ろしさを推し量る力量などまるでなく、とにかく自分よりもうんとキャリアのあるアーティストに信頼され、執筆をお願いされたことが嬉しく、その場で意味もわからず「はい」と返事をしました。その本が数年前に Actes Sudから仏語出版され、今年3月、日本でも岩波書店から『 重力との対話ー記憶の海辺から山海塾の舞踏へー』という題名で刊行されました。

私が執筆したのは、第一部の「自伝」と第三部の「理論」。あいまに、天児さんが、同じくActes Sudから出版されたエッセイ集『 Dialogue avec la gravité(重力との対話)』が挟まっています。本書のタイトルはここからとられています。

約1年にわたり、計6回取材させていただき、史実性や、固有名詞や、語彙の使用法など、そのつど天児さんに適確な意味を確認するかたちで、小石を一粒ずつ積んでいくように、少しずつていねいに文章化していきました。「差異と普遍性」「白についての再考」「沈黙の劇場」「意識の糸」といった山海塾の審美性にまつわる舞踏理論を文字化していく作業は、生半可な舞踊理論を受け売りする授業(もちろん、そうでない研究者・教育者がたくさんおられることも知っています)より、よっぽど勉強になりました。

言語化の過程で、多くの余白や余剰物をあえて残す、天児さんのイメージ言語を削ぎ落としすぎたのではないか、という懸念も残りますが、活字化のプロセスとは、そもそも他のなにかを捨て去る残酷な作業です。ぜひダンス研究者だけではなく、広く観劇する際の意識のありよう、舞台芸術というもののなりたち、人間の身体の可能性や不可思議さ、といったものに興味がある方に手にとってもらいたいです。

またこの場を借りて、未熟な私をあいてに、じつに辛抱強く語りつづけて下さった天児牛大さんに感謝の意を表します。

 

Posted on by K.Iwaki in BOOKS / 出版物
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