【BLOG】八日間のパレスチナ紛争と「トロイアの女たち」

今回のパレスチナ紛争は、やっぱり、今月初旬の米国大統領戦にことの発端の一部があるそうです。現イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフは、さる米国大統領選で共和党のミット・ロムニーを強く支持。いわゆる「ユダヤロビー」と言われるパワーを用いて米国による世界戦略を持続することを試みたと言います。しかしユダヤロビーは敗北し(本当に敗北してくれてよかった)、パレスチナ和平交渉に(とりあえず形だけでも)乗り気であるオバマ大統領が再選を果たしました。

その結果としてイスラエル国内では、いままで必死に和平を阻止しようと務めてきた右派の勢力が弱まり、オバマ同様和平を好む中道派(左派)が再台頭してきました。困ったのが、右派政権であるネタニヤフ首相です。彼は和平への機運がこれ以上進行するまえに、10月初旬に議会を解散。右派を再強化して政権奪取すべく、来年1月22日に行われる総選挙に備えることにしました。そして来年の選挙に向けて、国民の右派傾向を強めるためにネタニヤフ首相が取ったアクションが、今回の11月14日からのガザ侵攻なんだそうです。

このタイミングでガザを攻撃し、ガザからイスラエルにミサイルが飛んでくることを誘発すれば、イスラエルの世論を「やっぱりパレスチナとなんか仲良くするもんか!」と感情論的に右傾化することが想定できます。ちなみにガザからイスラエルに飛んでくるミサイルは非常に精度が低く、核武装しているイスラエルからすればじつはまったく脅威ではありません。つまり実害が少ないうえに、世論が右傾化するので、イスラエル右派にとってはかなり好都合なのだそうです。ちなみに今回の8日間での侵攻おける戦死者も、パレスチナ人162人(うち42人は子ども)に対しイスラエル人は5人です。

また今回の争いは、ガザで、イスラム原理主義組織ハマスの司令官を空爆して殺したことで始まりましたが、この司令官は殺される数時間前に、なんとイスラエル側から恒久和平の提案書を受け取り、これから和平交渉に入るところだったという、、、とんでもない噂もあります。さらに、パレスチナ自治政府大統領マフムード・アッバースは11月後半の国連総会で、パレスチナを国家承認してもらうための、かなり成功率の高い計画を企てていたところでした。

(上記の情報は、ジャーナリスト田中宇さんのコラム、The Jerusalem Times、The Electronic Intifada等から引用しています)

ますます混迷を極めるパレスチナ問題ですが、私も含めた日本人は、これらの事態に極めて無知であります。英国BBCや米国CNNなどの大手報道機関は、偏向報道を進めているとも言われており、果たしてどのような情報を信用すればいいのかわかりません。

私は基本的に The Electronic Intifadaというウェブサイトの情報をずっと追っていました。しかい、やはり生の声を聞かないことには、そこに住む人々の悩みの本質は理解できません。その個人の声をきちんとヒアリングし、そしてあまりにも真実を知らない私たち日本人にその声を届けるために、蜷川幸雄さんが演出する『トロイアの女たち』の稽古場で、プロデューサーと、数人の役者たちに「宣伝ではない」取材をさせてもらうことになりました。イスラエルのユダヤ系、アラブ系、双方から参加する役者たちを、誰が誰とも分からずに、ただ観劇をして「ああ、おもしろかった」で終わらせては、あまりに罪が大きすぎます。芝居を批判するにせよ、あるいは賛同するにせよ、きちんと当事者の話に耳を傾けるコミットメントをしたうえで言葉を紡ぐべきだと私は思います。記事は、緊急処置として東京芸術劇場のFacebookに掲載されるそうです。

イスラエルのユダヤ系とアラブ系の役者たちが、自国が戦火で殺しあいをしている最中に、どれほど切実な思いで極東の島国で舞台稽古にのぞんでいるのか。私はイスラエルという国に好感を持っていません。どちらかといえば「私はコロナイゼーションに反対する」というパレスチナ人への思いと共に、カメリ・シアターの方針に反論し、きたる12月にイスラエルで開催される<International Festival of Plays>への参加拒否を示したユダヤ人演出家ピーター・ブルックの行動に好感を持ちます。

しかしだからといって、すべてのイスラエル国民が悪であり許されないという還元主義的な極論に陥るのもまた危険です。(だから芸術家が自分のイメージアップのためだけに行う「パフォーマンス」としてのカルチュラル・ボイコットには私は反対です)実際、今回の役者陣のなかには家族の一員がリベラル左派でイスラエル国内に入国拒否されそうな子どもの親もいると聞きます。その思いは、想像を絶するものであり、はかり知れません。パレスチナ人思想家のエドワード・サイードはユダヤ人指揮者ダニエル・バレンボイムとの対話書『音楽と社会』で以下のように語ります。

「違った考えもあるということがたがいに承認されているのであれば、全員の意見が一致する必要があるとは思わない。これは大事なことだ。僕たちはおたがいの見解を尊重し、相手側の歴史をがまんしなくてはならない。とりわけ、ダニエルが言ったように、僕らが話しているのは世界のなかのほんの小さな一角についてなのだから。」

これは象牙の塔で思想する、ひとりの識者の理想論なのでしょうか。私には分かりません。だからこそ、イスラエルの俳優たちに会って、そのあまりにも重い「声」に、これから数日、耳を傾けてこようと思います。

Posted on by K.Iwaki in BLOG / ブログ
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